自作超短編小説 「8月の花火」
ちょっと風邪気味なので、
昔、お題に則した、短編小説を集めて掲載するという企画に
お誘いを戴いて書いたものを、少し推敲して
掲載してみます。
良かったら楽しんでくださいね^^



<8月の花火>


そのニュースはオレ達花火職人にとっての
シーズンオフ、1月半ばにやってきた。


人気番組「テレビカンピオーネ」の
「花火職人選手権」の予選が8月に開催されるというのだ。


「テレビカンピオーネ」という番組は、
ショウ的な方法で各界の名人同士を争わせ、

「カンピオーネ」(チャンピオン)を決めてしまおうという番組で、

勝敗の判定や勝負方法には多少の疑問が残るものの、

その効果は著しく、カンピオーネになった店や職人には
発注が後を絶たないのだという。





オレの「フラワー煙火業務店」は小さな工場だが、

煙火企画・製造・仕入れ・販売・委託・構想および、
火薬の調達、配合、星作り、組立、仕上げ、貯蔵。

そして製造をしていない業者への完成玉の仕入れ。

あとは、花火大会の消費許認可代行まで一環して行う、
俗に言う「花火職人」の店だ。



だが、巨大なイベントにはヘルプで参加させてもらえる程度。

外国に輸出するパイプなどもあるわけもなし。


オレの「フラワー煙火業務店」は、残念ながらそれだけで
年中食えるというシロモノではなかったのである。




オレは昔、子供のころに見た花火に感動してこの世界に入った。

熱意は、すぐに自身をいっぱしの花火職人に仕立て上げ、

独立し、工場を構えたものの、
工場の仕事自体はそんなにあるわけではなく、

シーズンオフの9月、2月だけではなく、
さらに休みの日がつづくというのが現状だった。



コネがある工場では、10月は体育祭、秋祭りの花火。

11月は学園祭関連の花火。12月は年末のカウントダウンの花火。

あとは、コンサート、遊園地のスペシャル期間の花火。
結婚式などと、かなり忙しい。



普通はこの期間に新製品の開発および、テストを終わらせる。

去年と同じ内容の花火大会では、お客さんは満足しないのだから。




春先にもなると、メインの花火大会にむけて主催者とのうちあわせ、
製造が始まり、
6月に入るまでには製造を終わらせておく(湿気のため)

こういうスケジュールが理想なのだが。




人気番組「テレビカンピオーネ」の「花火職人選手権」の予選の通知は
主催者なりに調べてあるのだろう、
比較的ヒマな1月半ばに届いた。
それはいいが、
今から新製品を開発したところで、打ち上げる機会がないので、
お客さんの反応を見る
テスト打ち上げができないのが問題ではあった。




しかし、このチャンスを逃すわけにはいかない。

これで「1年の半分以上がアルバイト」という屈辱的な
「花火職人の方がバイト?」な、状況から脱出する最高のチャンスなのだから。



全国の強豪相手にチカラを出し惜しみできるはずはなく、

現状での最高作を持っていくのは当然の事であったが、

テストできない不安を抱えつつも、新作の製作にとりかかる事にする。


幸か不幸か、時間は有り余ってるのだから。



まず、実験のためにいつもの倍ほどの金属を購入。

カリウム K バリウム Ba カルシウム Ca ストロンチウム Sr
銅 Cu ナトリウム Na リチウム Li・・・
だいたいこのあたりの金属を燃やしたときの
「炎色反応」が花火の鮮やかな色を演出するのである。


あとは組み合わせだ。


「割れ物」(球状に広がるスタンダート)、「ポカ物」(不規則にとんでいくハチなど)
このあたりがスタンダートだが、やはり今の流行は「型物」だろう。


「UFO」や「土星」、「ひまわり」、などと言ったら伝わるだろうか。

空に具体的なイメージを書き出す技法で、
最近は「文字花火」なども発達し、
これに含まれる。

ただ、見る方向によっては、
全く形がわからずということになってしまうので、

審査員席の方向に確実にわかるように
飛ばさなくてはならないというリスクがあるのだが。




我誉めかもしれないが、この世界を自ら志しただけあって、
技術には相応の自信がある。


文字花火もお手のものだが、
そういう「新しさ」が前の工場では受け入れられなくて
「独立せざるをえない」状況に追い込まれたのも確かだった。



開発のための資金が溢れるほどあるわけもないので、短期のアルバイトを入れまくる。

そして空いた時間に開発。
金銭的にも、体力的にも追い込まれ、へとへとになりながらも、
通常業務の花火大会の打ち合わせがはじまった4月半ばには、
一応の文字花火が完成し、
例年どおりのスケジュールを取り戻していた。






「へぇぇ!テレビカンピオーネに出るんだ?!」



つい、気が緩みバイト先の女性に花火の話をしてしまう。

まだまだ先の収録の話なので、話を漏らすのはご法度なのだが。



「どんな文字を空に浮かべるの?」



そう聞かれ「絶対に内緒にしてね」と念を押し、


女性に伝える。



我ながら自信があったし、誰かに聞いてもらいたくて
ウズウズしてたのである。



いろんな花火を打ちあげたクライマックスにね・・・


「テレビカンピオーネ」


「ハナビショクニン」


「センシュケン」


「バンザイ」


って4発の文字花火が打ちあがるのさ。

審査員ウケしそうだろ?



・・・得意だった。絶頂だった。

一刻も早く打ち上げて観客に見せたかった。


だが、目の前の彼女の反応は薄く、



「それって、他所とかぶるじゃない?」と一言。






・・・絶句。


最上階から、地面へ。
ロケット打ち上げから「兄弟よ、節約しよう」のスローガンまで。


一気になにもかもが粉々になった気がした。



文字花火の技術はともかく、
自分自身、書き出す文字自体にセンスがないとは
ゆめゆめ思わなかった。


職人気質で花火一筋のオレに
今さら、世間での言葉の流行などわかろうハズもない。

しかし、ここでメゲてるわけにはいかない。

こんな8月はもう2度と来ないのだがら。




もう時間がない。

通常の花火大会の分も作りはじめなくてはならないし。




・・・こうなったら、「割れ物」でいくしかない。

だれもが使ったことのない色や広がりを表現できれば・・・。



だがそれを考えるには、
今思えば、時間が足りなかったのだろう。


疲労もピークを迎え、
冷静な判断力を失っていたのだろう。


失敗できないプレッシャーとテストできない不安の中で
、
とうとう新作の「割れ物」が完成した。


誰もみたことのない色になるはずだ。





そしてオレにとって忘れられない8月が来た。




午後7時、各場所で予選が始まった。


あちこちで、まばゆい炎色反応の華と、聞きなれた轟音が炸裂する。


自分の番までまだ時間があったので、他所の花火を見学する。


やはり型物をクライマックスにもってきている業者が多い。


「テレビカンピオーネ」「ハナビショクニン」「センシュケン」「バンザイ」

と、
オレが描こうとしてたものと
まったく同じ文章を描き出してる業者を見たときは、
さすがに肝が冷えた。



「やめといてよかった。」

そう思ったのもつかの間、ひときわ高い喝采が会場を包んだ。

あちこちからの爆笑。


ハッとなって、天空に描かれた文字花火を見る。



「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」


「アヒャ!Σ(゚∀゚ ) 」


「グッジョブ!(≧∇≦)b 」




それは、「顔文字」であった。

職人気質なおれは、携帯電話のメールなどは一切しないので
思いつかなかった。


確かに見たことあるし、ウケている。



文字花火で勝負しなくてよかった・・・。

正直これ以上のネタはオレには思い浮かばなかっただろう。
やはり、本道で勝負をかけて正解だったようだ。




「フラワー煙火業務店さん、そろそろ準備お願いします~」

間延びした声でお呼びがかかる。




さぁ、オレの8月、いや夏が始まる・・・。




セットはそんなに時間のかかるものではなかった。

いつもどおり慎重にこなせばいいだけだ。

文字花火がない分、指向性には気を使わないでいいし。





そして、始まった。



スタンダートな「割れ物」が夜空を染めていく。

たまにアクセントとして、ポカ物を入れたり、
派手な音を入れたり。


お客さんもここまでは、と半ば予定調和的に喜んでいる。

その分クライマックスはハズせない。




さぁ、頼むぞ。



そう心の中でつぶやいて、新作20発を連続発射する。



こんなの誰も見たことがないハズだ。


新色中の新色。




「黒色花火」を見て盛り上がってくれ!




オレの黒色花火よ、夜空を闇に染めあげろ!
























・・・その翌月、オレはひっそりと工場をたたんだ・・・。




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[2016/04/27 00:00] | 自作小説 | トラックバック(0) | コメント(8) | page top
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